「感性がひらく土地の可能性」 株式会社Kokage代表取締役 大島草太さん

よみもの生き方

世界で評価されるジンをつくりながら、この土地を目的地にしていく。

阿武隈の山々に囲まれた川内村に、植物を蒸留する拠点がある。かつて薬屋の倉庫だった建物をリノベーションしたジンの蒸留所だ。この蒸留所は、2024年11月川内村に株式会社Kokage代表取締役の大島草太さん率いる「naturadistill(ナチュラディスティル)」がオープンした場所だ。面積の約90%を森林が占める川内村、その大地で育まれた地下水と、日本固有種・カヤの実をベースに、唯一無二のクラフトジンを蒸留している。

学時代、川内村との出会い

大島さんが川内村を初めて訪れたのは2015年。震災から4年が経った頃だった。当時は福島大学で教員を目指していた大学生。授業の一環で行われたフィールドワークで、夏休みに2週間滞在したことがきっかけだった。そこで出会ったのは、信念を持って生きる大人たちだった。地域の文脈に根ざし、自ら仕事を生み出している人たち。肩書きよりも、その人の生き方が前に出ていた。

「大人が楽しそうに暮らしている、というのが衝撃でした」

川内村には、仕事と生活が分断されていない空気があった。暮らしの延長線上に仕事があり、仕事の延長線上に暮らしがある。自然とともに生きながら、自分の役割をつくっていく。その在り方に強く惹かれたという。

海外で突きつけられた現実

大学3年時に休学し、カナダへワーキングホリデーに向かった。トロントの結婚式場のキッチンで働き、厳しい環境のなかで現地の人々と関係を築いた。ある日、現地でできた友人に「福島から来た」と伝えたときの反応が忘れられない。

原発事故のイメージが強く残る海外では、言葉で説明しても印象は簡単には変わらなかった。

「情報だけでは心は動かない、と実感しました」

“マイナスをゼロに戻す”説明ではなく、心が動く“プラス”を生み出すものが必要だと感じた。震災の地として語られるのではなく、憧れの地として訪れたくなる理由をつくりたい。その思いが、後の事業構想につながっていく。

カヤの実との出会い

帰国後、改めて川内村の山に入った。地域を歩き、土地を知るなかで、山に詳しい地元の人とともに歩いたときに出会ったのが”カヤの実”だった。日本固有種でありながら、その存在は広く知られているとは言い難い。けれど、その力強い香りと土地の文脈に、大島さんは可能性を感じた。

「香りを抽出できるジンなら、この土地をそのまま表現できると思ったんです」

ジンの面白さは、思想がそのまま味や香りに現れることだという。ボタニカルの選定、蒸留の設計、香りの構成。naturadistillの思想がそのまま一本のボトルになる。説明ではなく、身体感覚に直接届く表現。それがジンだった。

リスペクトの上での連携

そして、大島さんが大切にしているのは、地域へのリスペクトだ。地域は「使うもの」ではない。すでにある文脈、暮らし、歴史に敬意を払い、そのうえで対話を重ねる。外から来た人も、もともと暮らしている人も対等に関わる。

「いいものは取り入れる。でも、もともとあるものを蔑ろにしない。文化の新陳代謝が、きちんと機能していると感じます」

その空気が、新しい挑戦を支えている。

自然の中に人が住んでいる村

川内村は、自然と人が分離していない。季節の移ろいを日々感じながら暮らしている人が多いという。山に入り、きのこを採り、木を知る。自然は“取り入れる対象”ではなく、そのなかに人の暮らしがある。川内村の人口は約2,000人。行政や住民を含め、新しい取り組みに対して対話ができるちょうどよい規模だという。そのうえで、急ぎすぎず、今ある暮らしや文化を大切にする空気がある。

「川内は、面白い人が集まる場所なんです」

自然に惹かれてくる人。感性でつながる人。村でありながら、国内外から料理人やバーテンダー、アーティストが訪れる。それぞれが独立しながらも、緩やかにつながっている。そんな土壌が、新しい文化を受け止めている。

世界一のジンを目指す理由

大島さんが掲げる目標は”ジンで世界一を取ること”。世界基準で評価されるお酒になれば、

「震災の地としてではなく、憧れの地として来てもらえる場所にしたいんです」

プロダクトが土地の魅力を広げ、人が訪れ、また新たな関係が生まれる。ジンは、その入口だ。

蒸留所から広がる構想

今後の展望はジンだけにとどまらない。立ち上げ中の蒸留所に併設するレストランバー、宿泊施設、そして森林の再生構想もある。森林資源を守り、活かし、次世代へつなぐための構造をつくる。森を守るというより、森とともに生き続けるための仕組みをつくる。その循環を支えるのがジンというプロダクトだ。そして、大島さんは“300年計画”も構想しているという。

「300年は、カヤの実が成木になる年月でもあります。人間の時間軸を超えた尺度で考えることで、子供たちの将来まで続いていく仕組みを考えたいんです」

自分がいなくても回り続ける構造をつくることで、人と森と産業が循環し続ける仕組みを残せる。それは個人の成功ではなく、土地の時間に合わせた設計だ。

感性から始まる未来

情報で説得するのではなく、感動で心を動かす。土地を守るのではなく、土地を生きる。川内村の森で生まれた香りが、遠い国のグラスの中で立ち上り、その感動が憧れとなりこの地に足を運ばせる。その未来を、大島さんは本気で描いている。川内村を、世界中から訪れたくなる場所へ。その挑戦は、森の香りとともに静かに広がっている。

(インタビュー・写真・文 菅野海琴)

株式会社Kokage代表取締・大島草太(おおしま・そうた)
栃木県宇都宮市出身
福島大学卒業
2019年 キッチンカーで地元食材を使ったワッフルの製造販売
2022年 摘果フルーツを活用したフルーツハーブティーブランドを立ち上げる
2024年 クラフトジンの蒸留所(naturadistill)を開設
チームに入る