「豊かさとは何か」について考える。 〜いちご家族〜

よみもの

みなさんは「いちごの旬」をご存じでしょうか? 一般的には冬から春先の時期が旬と言われていますが、いちご農家の太田啓詩(おおたけいし)さんは「冬から初夏にかけて、いちごが季節によって作り出す旬の変化を感じてほしい」と語ります。福島県岩瀬郡鏡石町で2年前からいちご栽培に取り組んでいる太田さん。甘さだけにとどまらない、いちごの奥深い魅力を引き出し、消費者に届けようと奮闘する太田さんにお話を伺いました。

(聞き手:小笠原隼人 編集:金舞幸、髙田優花)

 

太田啓詩(oota keishi)

福島県岩瀬郡鏡石町出身。大学進学を機に地元を離れ、2006年より外資系製薬会社にて関西勤務、2011年の東日本大震災をきっかけに福島市に転勤。2019年に前職を退職し、2020年より地元鏡石町でいちご栽培スタート。「いちご家族」と名付けた直売所で販売も行っている。

 

――最初に、太田さんのいちごづくりのこだわりを教えて頂けますか?

私は、昔ながらの畑の土を利用して行う土耕栽培を採用しています。作業効率等のメリットから高設栽培(※1)という選択肢も考えましたが、私は「自分が育ったこの土地を自分が納得できる形でつなぎたい、守りたい」という気持ちが強かったので、鏡石町に何百年もある水や土、微生物などを活かすことのできる土耕栽培を選びました。ここにある水と土と日光で作物を作っていくというのが、私のいちごづくりにおける絶対条件です。水もこの場所に昔からある井戸の水を使っています。

また、土の中にいる微生物のはたらきをリセットしないで生かし続けたいという思いから一度たてた畝を崩さずに栽培していく「不耕起栽培」という方法を選びました。

 

品種は「とちおとめ」という1品種のみをつくっています。私の中で最もいちごらしい品種で、甘くて酸っぱくて、シーズン通して魅力があるというところに惹かれてこの品種を選びました。1種類のいちごが作り出す旬の変化をお客さんに感じていただきたいなと思っています。例えば、いちごが一般的に甘いと言われている季節は冬で、春になると酸味が出やすくなるのですが、酸味にも意味はあると思っています。私はもともと製薬会社で働いていたという事もあって、いちごでも動物でも「健康でありのままの状態」がとても大切だと考えています。いちごが健康な状態のときに実らせるありのままの実が、結果的に私たちにとっても最良なのではないかと思っています。

 

いちご家族では、糖度を追求するのではなく、それぞれの季節がつくるいちごの良さを正しくお伝えしていきたいし、ありのままの魅力を受け入れていただける形でお届けしたいと考えています。いちご家族のいちごは、直売所でのお渡しとオンラインショップのみの販売です。お客様と直接繋がる事で、かけがえない特別ないちごとしてお届けしたいと考えています。

注1)高設栽培とは作業性を考慮して高さ1メートルほどのベンチの上に栽培のための栽培槽を設置して行う方法

 

――「この土地を守りたい」と仰っていましたが、この想いを持ったきっかけは何ですか?

いちご農家になる前は関西で製薬会社の営業をしていました。やりがいも楽しさも感じていて、自分の頑張りが対価として返ってくる感覚もありました。福島に戻ってきたのは2011年の東日本大震災がきっかけです。福島で働くことに抵抗を持つ人が増え、福島営業所の存続が危ういことを知り、自らに少しでもできることがあるのならと福島営業所への転勤を希望しました。

そして、福島では仕事やプライベートで多くの方々に出会う中で、私自身も自らの育った実家と土地を繋いでみたいと強く思うようになりました。その中で、どのような形で「つなぐ」べきなのかという自問自答を繰り返す中で、浮かび上がったのが「いちご農家」でした。

そこで、いちご栽培というビジネスが投資に見合うものなのかを勉強しました。真剣にいちごに向き合った結果、リスクも感じたけれど、いちごに賭けてみようと思う理由が揃ったので会社を辞めました。1年間、おざわ農園(※2)に通いながら勉強し、それと並行して自宅の敷地内にハウスをたてる準備をして、栽培をスタートしたのが2020年です。いちごを販売する直売所を建設するためのクラウドファンディングも行い、600万円を超えるご支援を頂きました。今年で2期目のシーズンになりますが、収穫したいちごは余すことなくお客様の元へ届けられています。

(600万円を超える支援を集めたクラウドファンディング)

 

いちごづくりをする中で、前職の経験が活きていると思うことが多々あります。前職では「ニーズはどこにあるんだろう」とか、「本当に求められているものはなんだろう」と顧客ニーズについて常に考えていましたが、現在は、「お客様が笑顔になる為に、いちご家族としてできる事は何だろう」「今、いちごは何を欲しているんだろう」という思考に変わっているだけで、前職と全く同じことを考えています。

(クラウドファンディング資金で購入した薪ストーブの前で話す太田さん)

今後は、ここでしか作れないソフトクリーム事業も始めたいと思います。いちごの良さを引き出したソフトクリームをつくり、多くの方に笑顔になっていただきたいですね。

注2)おざわ農園さんとは、福島県須賀川市にある苺農家『おざわ農園』のこと。農園主は小沢 充博さん。完熟のいちごを直売で販売している。

 

――地元に戻ってきて農家をするということを決意されたことで、ご両親も喜んだのではないですか?

いや、そんなことはなくて大反対でした。父はサラリーマンで農業はやっていなかったですし、会社員を辞めてまでわざわざリスクをとるなんてありえないという反応でした。社会人をしながら1年間研修していた時期に、「いちご農家をやろうと思っている」と相談したら、その頃から反対というか、話にすら乗ってくれませんでした。会社を辞める際には、賛成はできなくても理解してもらえないかと話しました。両親からは「お前の人生だし、反対できないことも重々承知している。でも、どうしても賛成はできない。この想いも理解して欲しい」と言われました。結局最後には、「それでも、お前の人生なんだから、自分で決めなさい」と言ってもらえたことで決意は固まりました。農家になるというアクセルを踏んだので、事業を軌道にのせることでしか両親を安心させられないし、そこは頑張ろうと思っています。

――太田さんご自身の「家族」についてお話していただきましたが、「いちご家族」という社名に込めた想いについて教えてください。

自分の家族を大切にしていきたいと思って立ち上げた農園であると同時に、育てていく「いちご」や「お客様」も家族のように大切にしていきたいという想いを込めました。販売者とお客様という関係以上に、家族のように接していきたいなと思っています。

また、家族は「強くて脆いもの」だと実感するときが多くあります。いちご家族のいちごを中心に、家族というテーマについて考え続けていきたいなと思います。

 

 

写真提供:太田亜寿沙

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