福島には、「さんまの街」があります。いわき市小名浜で、水産業の、小名浜の食文化の再生に挑む、上野臺豊商店代表、上野臺優(うえのだい・ゆたか)さんのインタビューです。
◆さんまの街、小名浜と上野台豊商店
上野臺豊商店代表、上野臺優(ゆたか)さん。社名の上野臺豊さんは創業者で優さんの祖父にあたる。
―小名浜とさんまの歴史について教えてください。
小名浜は、福島で唯一、さんま船団を持つ浜で、水揚げ量もかなり多い浜でした。かつては地元にとってさんまは買うものではなく、貰うもの、と言ってしまえるくらい、生活に溢れている食べ物でした。日々、さんまを食べるものですから、生食に限らず、保存が効くように、また食べ飽きないように数々の工夫が生まれていました。今ではよく聞く「さんまのみりん干し」も、実は小名浜が発祥の地です。一時期は、みりん干し専門で成り立っていた家が何件もありました。
-そんな小名浜で、上野臺豊商店はどのように歩んでこられたのですか?
上野臺豊商店は、祖父の代からいわしの加工業を営んできて、1980年に法人化をしたのが始まりです。私自身はというと、20歳になるまで魚が苦手でした。家で出る干し魚が漬けすぎた塩辛いものであったり、また家の中で匂いもしたりしていたので、どうしても食べられないことが多かったです。大学の途中で、名古屋の市場に就職して、数々の魚に触れ、食べているうちにその抵抗感はなくなっていました。むしろ、家庭に出ていたものの中には、とても美味しいものが並んでいたと、後になって気づきました。その後1999年に地元に戻り、今に至ります。
◆立ち上がった3代目
-さんまの取り扱いを始めたのは、いつ頃だったのですか?
いわしなどの原料の供給の問題もあり、自分が戻ったころにさんまの加工をメインにシフトすることになりました。それまで、小名浜のさんまは、水揚げして消費地に流すだけで成り立っていた部分が大きく、つまり、付加価値がなくても商売ができていました。しかし魚食需要の低下の影響も含め、従来のビジネスモデルへの危機感は感じるようになっていました。
状況に追い打ちをかけたのは、やはり東日本大震災でした。2011年から初期は水揚げ量、流通量ともに落ち込み、これまでの水産業の課題も顕わとなりました。更には、全国的な資源量の低下も重なり、このまま水揚げが減ってしまえば、漁師や加工業者だけではなく、水産業に関わる全員がダメージを受けてしまいます。これまで小名浜にあった豊かな食生活、さんま文化が途絶えてしまうのではないかと悩み、何か新しい名物をつくらなければいけないのではないか、と思い至って始めたのが「小名浜さんま郷土料理再生プロジェクト」です。
◆小名浜さんま郷土料理再生プロジェクトと「あおいち」プロジェクト
-プロジェクトについて、教えてください。
このプロジェクトは、市内の水産業者、卸問屋、加工業者などの複数の企業が連携し、さんまの郷土料理を商品化するプロジェクトです。小名浜の歴史と伝統を重ね合わせながら、魅力的な商品開発をめざしています。
例えば、最初に発売した「ポーポー焼き」は、元々は漁師料理として食べられていて、船の上で料理をしていると、脂が炭火に落ちて「ポーポー」と炎が出たから名付けられた、と言われています。プロジェクトで商品化するにあたっては、さんまの鮮度にこだわり、水揚げ後24時間以内に下処理をすることで、臭みを抑え、旨味を引きだす仕上がりになっています。派生商品として、つみれ、そぼろ、餃子なども展開しています。(https://www.onahamanosanma.jp/)
開発された新商品たち。地元スーパーほか、BASEで購入することができる。
-新たなプロジェクトにも取り組まれているとお聞きしました、そちらについても教えていただけますか。
「あおいち」という、地域内連携による、青魚の地産地消推進と、健康促進を目的としたプロジェクトです。小名浜は、サバやいわしなど、青魚が多く揚がる漁港でもありますが、さんま同様に水揚げ不足や消費量の低下に直面しています。水産事業者や、料理人だけではなく、医師や専門家を招いて、青魚の健康効果を活かすとともに、まちづくりのリーダーとも連携し、市民もプロセスに関わってもらいながら、新名物を生み出していく予定です。
あおいちプロジェクトのロゴ。大きな一文字が目を引く。
-一般的な6次化ではなく、医療関係者やまちづくりセクターの巻き込みは非常に新しいモデルだと感じます。
実際に、商品づくりの際に医学的な見地からの検証をしていただいたり、地域の集いの場で継続的に青魚を食べていただき、フィードバックを受けたりして、リリースまでにバージョンアップをしていく仕組みになっています。「あおいち」は、「青」魚を、小名浜の海の「青」を地域で「一番」の財産にしたい。また、「青」と「医」療と「地」域の連携をイメージして名付けられました。青魚を中心として、水産業振興、いわきの魅力となる産品づくり、地域の健康サポートなどの効果が生まれることを期待しています。
このプロジェクトは、年度内に5商品をリリースすることを目標としているそう。新たないわき名物の誕生が楽しみです!