みなさんは、いわきと聞いて、何の街だとイメージするでしょうか?
関東圏の方は、スパリゾートハワイアンズを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、いわきの魅力はそれだけではありません。久之浜港や小名浜港などの海と、トマトをはじめとする陸の幸がどちらも味わえる食の街でもあります。さらに、いわきは生産者と地元のシェフが一体となって、メニュー開発やイベントを行う、素敵なコミュニティが出来ているのです。今回は、その魅力を東京で味わうイベントの模様をお送りします。
■シェフと生産者の紹介
今回腕をふるってくれるのは、いわき出身の2名のシェフ。
中田耕一郎シェフ 大学を卒業後、調理師専門学校を経て箱根「オーベルジュ オー・ミラドー」にてフレンチを学ぶ。その後「レストランSIMPEI」を経て「ELEMENTS」で料理長を務め、ミシュラン星付の日本料理店「料理屋こだま」で研鑽。2011年にフレンチと話を融合させた創作料理を提供する「フレンチレストラン ル・ジャポン」をオープン。今回の会場もこのお店です。
萩 春朋シェフ 2014年度、農林水産省「料理マスターズ」受賞。いわき市内で、完全予約制の「HAGIフランス料理店」を営む。精力的に地元いわきの生産者のもとに出向き、その食材の魅力を存分に引き立てる料理を提供している。また、一般社団法人F‘s Kitchenの代表理事として、加工品開発や消費者との交流イベントの実施も精力的に行う。
また、農水それぞれの代表として、白石長利さん、榊裕美さんが食材のプロとして解説をしてくださいました。
白石長利さん(写真右)いわき市小川町の農家の8代目として生まれ、農業大学を経て21歳で就農。農薬と化学肥料を使わない自然農法を導入し、祖父の代から守り続けている里芋「長兵衛」のほか、キャベツやブロッコリーといった野菜を栽培している。
榊裕美さん(写真左)青森県八戸市出身。高校卒業後、埼玉県の大学に進学。在学中に震災が発生し、ボランティアとして東北へ。いわき市の温泉旅館での就業などを経て、再度大学院に進学するも、2017年にいわき市に移住。2019年から久之浜に暮らし、合同会社はまからの一員として魚の卸販売や地元の子供達に水産業を伝える教育事業に取り組んでいる。
■いよいよ、お待ちかねのコースがスタート。
1品目はメヒカリ、穴子、里芋の3種の揚げ物の盛り合わせ。市の魚でもあるメヒカリの天ぷらはその大きさだけではなく、口に入れるとほどける脂の乗り具合。3日間熟成した穴子のフリットはクセのない旨味が広がります。フリットの衣にはコーンフレークが使われ、身のフワフワ感との食感の対比が楽しい仕上がりに。
奥には白石さんが祖父の代から受け継いできた里芋「長兵衛」のクロケットが。他の具材を一切使わず、長兵衛自身の旨味と絹のような滑らか食感はいつまでも味わっていられるようでした。
穴子の下に美しく敷かれた土佐酢のあんと、ペアリングのいわきワイナリーの梨のスパークリングのお陰で後味もスッキリ。
辛口の味わいとほどよい喉越しがマッチする。
2品目はカナガシラの干物から作ったブイヤベース。普段市場に上がっても安い値段しかつかず、首都圏では殆ど目にすることがないお魚とのこと。助川農園の「親バカトマト」も浮かんでいます。合わせるは地元の清酒蔵「又兵衛」の吟醸酒。魚の旨味とトマトの濃厚な甘酸っぱさに包まれる中に、又兵衛を流し込むと素晴らしい余韻に包まれます。
■ペアリングの面白さ
3品目はアイナメのポワレ。今が旬のアイナメ、皮はパリッと、身はモチモチに仕上がり、フキノトウのソースのほのかな苦味がベストマッチ。添えられているのは、この日の朝に獲られた、白石さん命名の「キャベ菜」と「ちびっコリー」です。
それぞれ、キャベツとブロッコリーの「脇芽」という部分。昨年秋の台風と豪雨による被害で収穫が出来なくなってしまった畑の中から出てきたということで、白石さんの野菜の生命力に驚かされます。春の野菜らしく、甘みと苦みのバランスが素晴らしい味わいです。
4品目は、ヒラメのボンファム。フランスでは舌平目で作られる伝統のお料理です。今回は肉厚のヒラメを蒸し煮にしてから、原木椎茸、長兵衛を加え、いわき産コシヒカリのブランド「いわきライキ」の米粉ソースでまとめています。いわきでは、出荷できるヒラメの大きさを50cmに設定することで、資源量を守りながら品質の良いものを水揚げしていると、榊さんは話します。
クリームの中で異なる旨味が重なる
3品目、4品目のペアリングワインは、同じく夢ワイナリーの甲州(白)と甲州オレンジ。甲州オレンジは、赤ワインのように皮も含めて醸すことでこのような色合いに。少し渋みが加わり、ワイン自体の味の比較だけではなく、ペアリング同士の比較もとても興味深いものでした。
その名の通りのオレンジ色
■中田シェフを救ったお米!? 最後まで美味しい、いわきの幸
続いてはヤナギカレイの干物と山椒の土鍋ご飯。いわき市内にある小泉園のお米は、生米の選別を特別に厳しく行うことで、雑味のないお米の味わいを実現してくれるとのこと。1粒の悪い米を空気で飛ばすために、周りのお米も飛んでしまうので、歩留まりが悪くなってしまうのも気にしない徹底ぶり。中田シェフは普段からこのお米をお店でも使っていて、「このお米がなければ店は続けられなかった」と語るほど。その言葉通り、いつまでも口に入れていたい味わいでした。
デザートは、いわきいちごといわきワイナリーワインのスープ。ゴマとココナツミルクのアイスクリームが浮かんでいます。スープにも使われているマスカットベーリーAのワインと一緒にいただきました。ワインのバニラ香と、いちごの酸、アイスの甘みが合わさり、最後の一品まで大満足なコースでした。
■おわりに
今回のお料理は、食材も料理人も全ていわき産。食材の豊かさはもちろんのこと、生産者と料理人がゼロ距離で日々磨き続けているいわき市ならではの食の力を感じるイベントでした。2人のシェフのお店はもちろんのこと、久之浜の「はますい」や白石さんの農地にもぜひ訪れてみてください。