いわき市でしか食べられない!? 牛飼い・トマト農家・肉屋・飲食店のつながりが生んだ幻の赤身肉

よみもの

お肉と言えば、上質なサシ! 霜降り! という イメージの方も多いと思いますが、脂身の少ない上質な赤身肉を世の中に提供しようと奮闘する畜産家をご存知でしょうか。「草野畜産」5代目の草野純一さんは、分娩経験のある「経産牛」の脂肪分の少なさに目を付け、赤身の質に優れた新たなブランド牛の開発を手がけています。その挑戦の裏には、震災があったからこそ生まれた多くの方の想い、そしてつながりがありました。5代続く畜産業の伝統を守りながら、新ブランド開発・次世代の育成と多岐にわたって奮闘する草野さんにお話を伺いました。

(聞き手:小笠原隼人 編集:金舞幸、髙田優花)

 

草野 純一(Kusano Junichi)

福島県いわき市三和町差塩の「草野畜産」の5代目。トレードマークは黒のつなぎ、テンガロンハット。平成29年に、和牛のオリンピックと呼ばれる「全国和牛能力共進会」に福島県代表として出場し、いわきから初出場で「優等賞」を受賞。経産牛の餌にいわき名産のサンシャイントマトを混ぜ込み育てる「サンシャインマザービーフ」という新たなブランドの開発を行っている。小中学生の畜産体験教室の受け入れなど、次世代の育成にも力を入れている。

 

――「サンシャインマザービーフ」という名前の新たなブランド牛の開発に挑戦しているとお聞きしましたが、どんなブランドなのでしょうか?

「サンシャインマザービーフ」とは、いわき市の名産「サンシャイントマト」を食べて育った母牛の肉のことです。うちでは生まれた子牛を競りにかけているのですが、その子牛を生んだ母牛に、サンシャイントマトをエサに混ぜたものを与えて育てます。

一般的には脂身が細かくたっぷり入った「霜降り」の牛肉が人気です。一方、脂身が少ない経産牛は価値が低いとされています。実際、霜降り肉のほうがよく売れるんですけど、実は食べると「脂身が重い」と感じられる方も多いのです。自分は長年、 上質で旨味のある、また食べたいと思う肉 をつくりたいと思っていて、たどり着いたのが経産牛でした。出産後の牛に、トマトが入ったエサを与えて丁寧に肥育することにより、食べやすい赤身のお肉になります。美味しい赤身肉を求める方から問い合わせもいただいています。

(牛のブラッシングを行う草野さん)

 

――「サンシャインマザービーフ」というブランドをつくるきっかけは何だったのですか。

震災後、風評被害で福島の農水産物が全然売れない時期がありました。そんなときに、白石さん(注1)や「サンシャイントマト」の生産者である元木さん(注2)たちが「いわきのものは大丈夫」ということをすごく積極的に発信して、動いてくれていたのを目の当たりにしたのです。彼らの姿を見て、「牛屋は牛屋」という壁をつくるのではなく、野菜やほかの作物をつくるほかの農家さんとも一緒に、いわきの農家全体でやっていかなきゃいけないと感じました。いわきの特産品であるトマトを使って「サンシャインマザービーフ」をつくろうとしたのは、それがきっかけですかね。震災があったからこそ、ほかの農家さんとのつながりができたともいえるかもしれませんね。

取り組みを続けていくうちに、農家さんだけでなく、お肉屋さんやいわきの飲食店さんとも協力できるようになってきました。肉屋を営んでいる地元の同級生に会ったとき「これから福島の牛を売っていくには、肉屋さんとの連携も図らないとダメだと思っている」と話したことがありました。すると彼は「震災後、福島の牛が売れないことにすごく心が痛んでいたので、何かしたいと思っていた」と言ってくれて、じゃあ一緒にやっていきましょうという話になったのです福島のお肉は原発事故後の風評被害からの回復が困難で、競りにかけて卸すとなると価格が不安定になってしまいます。でも、お肉屋さんを通して売る先を決めることができるのであれば、自分が納得する牛を納得する値段で売ることができるので、お肉屋さんと連携できたのは大きな進歩でした。

またブランド開発を進める中で、いわきの飲食店の方ともつながることができました。「サンシャインマザービーフ」を「いわきに来たからこそ食べられる幻の赤身肉」として売り出せたら面白いなと思っています。お肉を求めて県内外からいわきに来てもらうことができれば、地域活性化にもつながると思いますね。

「サンシャインマザービーフ」の開発は、牛飼いだけのつながりでは生まれなかったものだと思います。ほかの作物を作る農家さん、お肉屋さん、飲食店、全てがつながってできたものです。こう考えると、異業種の方とつながってお話させていただくことで、いろんな面白い発想ができてくるし、お互いにエネルギーもらえる部分 や、プラスになることがいっぱいあると強く思いますね。

注1 白石さん・・・福島県いわき市小川町で、MOA自然農法栽培を中心に、ブロッコリー・キャベツ・里芋・ネギ・ナス・米を栽培から販売までを行っている白石長利さんのこと。

注2 元木さん・・・農と食で五感を耕すトマトのテーマパークをコンセプトとした株式会社ワンダーファームの代表取締役元木寛さんのこと。

 

(草野さんと元木さんと白石さん。ユニークな行動からいわきの3バカと呼ばれることもあるそう)

 

(草野さんとお肉屋さん)

 

――「震災がつながりを生んだ」ということですが、震災後は大変なことも多かったのではないですか?

そうですね。震災後、通常なら1頭あたり70〜80万する牛が、1頭10万円、へたすると売れないという状況になってしまって、この先どうなるんだろうととても不安でした。周りの農家さんも辞めてしまう人が多くて、農家さんの数自体が減ってしまったりもしました。でも、その先行きが見えない時に、「下がったときは絶対上がるから。ここが踏ん張りどきだぞ」と親父に言われて。震災が起きた当初は本当にどうなってしまうのかなと思っていましたが、やり続ける姿を見せ続けてくれた親父の存在は大きかったですね。親父の時代は狂牛病もあったし、やっぱり様々な困難を乗り越えてきた長年の経験は違うなと思いましたね。親父以外でも、周りを見渡すと、大変なことも多い中でやり続けてきた農家さんは、今回の震災でもへこたれなかったというか、いろいろな経験を積んで辞めないで牛飼いやってきたひとたちはやっぱり強かったですね。

それと、今回のコロナ禍 も牛飼いにとっては大きな試練です。牛のえさとなる草は外国からの輸入に頼っている部分が大きいのですが、コロナ禍で輸入量が減り、価格が高騰してしまったため、苦しい経営を強いられている農家さんも多くいます。それと、福島は原発事故の影響で、除染が終わった土地からしか草がとれないので、現在は国の補償として供給される草に頼っている部分も大きく、この補償が切れてしまったときに、草をどのように確保するかが多くの農家さんの課題としてあります。

俺は、このエサの問題を以前からどうにかしないといけないと思っていて、仲間の牛飼いと協力して、草を育てる土地と必要な機械を共同で購入しました。おかげで、これから自分の牛が増えても全然問題ないくらいの草の量を確保することができるようになりました。牛のふんを堆肥として使用できるので循環にもなるし、地元で育てたものをエサにできるのは嬉しいですね。これまで、いろんな課題に直面してきたからこそ、先手を打って負けずにやり続けてやろうと思っています。

昔から牛屋さんは俺にとってかっこいい存在なんですよ。特に小さい頃の印象に残っているのが、父が腹巻きの中に直接お金をいっぱい入れながら取引をしている姿です。その姿を見て「かっけー!」と思って(笑)、牛飼いに憧れを抱いてきました。保育園の頃から、親父のマネをして白い 靴で登園したりしたほどです。家が農家だということを隠したり恥ずかしがったりする同級生もいたし、ましてや牛を飼ってるなんて恥ずかしいっていう人もいたんですけど、俺は全然恥ずかしいと思いませんでした。むしろかっこいいじゃんって小さいころから思ってましたね。

ただ、親父たちは1から10までなんでも自分でやろうとするので、すごく仕事の量が多いです。機械に頼れるところは頼るとか、親父と話をしながら変えられる部分は変えていくようにしています。親父と息子、師匠と弟子という関係性は大切にしながら、新しい方法も取り入れていけば、次の若い世代も牛飼いに憧れてくれるんじゃないかなと思いますね。

やっぱりこれからの若い子達に、牛飼いはかっこいいというのを見せないといけないと思っています。「なんかいつも汚い格好してるよな」と思われるよりは、「あの牛屋さんかっこいい」と思われる方がいいですから。なので、いつも牛のお世話をするときはテンガロンハットを被ってやってます(笑)。少しでもかっこいいなと思ってもらえて、牛飼いが一人でも増えればいいなと思ってます。

 

(ご両親と草野さん)

 

――息子さんも牛飼いに興味をもっていたりするんのですしょうか?

2人の息子はまだ1歳と3歳ですけど、興味を持っています。中学生の甥っ子もすごく興味を持ってくれていて、学校休んでまで牛の競りを見に行ったりしていますね。 興味を持ってくれているのはうれしいことなので、どんどん体験してほしいと思いますね。

平成29年に「全国和牛能力共進会」という大会に出たんですけど、そのときは息子も親父も妻も、三世代みんなで一丸となって牛のお世話をしたんです。「全国和牛能力共進会」は、牛の品格や牛の品格や毛並みの美しさの審査があるので、ブラッシングしたり運動させたり調教したりすることが必要になります。自分一人ではできないので、もう家族総出で1つの目標に向かいました。正直大変だったし、お金もかかったんですけど、この大会に出たことによって福島県内の若い人達や牛飼いの人に知り合いも増えましたし、優等賞を頂いて「いい牛を作った」と一目置かれるようになりました。いわき地区の牛飼いの全体的なレベルアップにもなったのかなと思います。参加して、チャレンジしてよかったですね。

 

(牛の世話をする草野さんの息子さん)

 

(「全国和牛能力共進会」のために牛を運動させる草野さん)

 

(全国和牛能力共進会で優等賞を受賞したひろこ号と草野さんご一家)

 

――今後、挑戦していきたいのはどのようなことですか?

今、積極的にやっていきたいのは農業体験・畜産体験の受け入れです。この間も福島大学附属小学校の4年生100人に来ていただきました。いらっしゃった先生が子どもたちの畜産体験の様子を見て「子どもたちの来たときの顔と帰るときの顔が違う。学校で目立たない子がここに来て一生懸命働いてる。目が違う。」と話してくれました。 体験して、五感で感じるからこそ子どもたちが成長する場になるのだと改めて感じましたね。いわき市で子どもたちが畜産の体験ができる基地を作ろうという動きもあるので、ぜひ協力したいと思っています。

畜産体験したうえで子どもたちに「ここで産まれた牛をお肉として食べているんだよ、かわいそうってみんな言うけどかわいそうって言ったら牛がかわいそう。そこはありがとうって言わないとだめなんだよ」という話をしたら、「自分がかわいそうって思っていたのがすごく間違っていた、ありがとうという大切さがわかりました」とお礼の手紙をもらったことがあります。「食育」という言葉がありますけど、「命」を頂くことをどう捉えるかというのは、教わるものでなく、ひとりひとりが感じて学んでいくものなのかもしれませんね。

どうしても、 「牛を飼っている」=「殺して食べるからかわいそう」という概念があるけれど、産まれてきてくれてありがとう、そしていただきますという思いを牛に伝えられれば最高だと思いますね。学校ではなかなかそこまで教えてくれないので、俺ら現場にいる人間が、子供達に教えていかないといけないなと思います。俺は今までの牛屋さんがやらないことをどんどんやっていくと決意しています。

 

(自身の母校の前で畜産の未来を見据える草野さん)

 

編集後記

草野さんのおおらかな人柄からいろんな人とのつながりが生まれて、他の牛屋さんが今までやってこなかったことをどんどんやっていく、その姿は本当にかっこいいなと感じさせるインタビューでした。幻の赤身肉「サンシャインマザービーフ」目当てにいわき市にどんどん人が来るといいなと思いました。

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