「カトウファーム」 / 加藤 晃司(こうじ)・加藤絵美
2007年に結婚。2009年に祖父の跡を継ぐため、共にサラリーマンから米農家に。現在は、夫婦で4人の子育てをしながら農業を行う。栽培するお米は、福島県が15年かけて開発した「天のつぶ」という品種が中心。減農薬だけでなく、福島盆地の特徴を活かした寒暖差と3年連続モンドセレクションを受賞した福島市の清流を使用し、優しい甘み、食べ応えのある食感、粒ぞろいの良いお米を作る。また、安全安心の国際的な保証基準として近年注目されているグローバルGAPの取得に向けて取り組みながら、40町歩程度の田んぼを管理する。(福島市最大規模)。ゆくゆくは、100町歩(=1,000,000平米。1町歩は1ヘクタール)を開墾し、地域産業を支えられる大規模農家を目指している。
■農家を始めたのは、ストレスフリーだと思ったから。「福島のために」という想いはまったくありませんでした。
――農業を始められたのはいつからでしょうか?
絵美
農業を始めたのは、8年前(2009年)で、その前は、二人ともサラリーマンとして働いていました。始めた頃は、今みたいに「福島のために」という想いはまったくありませんでした。
晃司
「農家は人と向き合うことがないから、ストレスフリーだろうな」っていうイメージがあったのと、祖父の跡取りがいなかったから始めたのが本音です。サラリーマンとして働いているときは、人とのコミュニケーションは利益を上げるためにするものであったり、上司との関係で色々あったりしたので……。
絵美
その点、農業は人と話すことが息抜きになるんですよね。
(インタビューさせていただいた自宅リビングにて)
■この地域の田んぼを、これから誰が守っていくのか
晃司
ただ、ストレスフリーだと思って実際に農業を始めてみたら、色々と現実の壁にぶつかりました。まずは「周りには年取った人ばかりなのに、こんな広い面積の田んぼを、これから誰がやってくんだろう」っていう問題。うちは、祖父が持っていた田んぼの面積だけでは食っていけないので、近所の農家さんの田んぼの稲を刈って、精米して、という一連の作業を手伝っています。
震災の影響は落ち着きましたが、どこの農家さんも高齢者が多くて、今後いつまで続けられるか分かりません。近所の農家さんが引退すると、私たちの手伝いの仕事も減ってしまうし、この地域から田んぼも無くなってしまいます。ただ、今のカトウファームの規模だと、お手伝いできる量も限られるので、会社としてもっと人を雇って、高齢者の方が続けられなくなった田んぼの耕作を引き受けられるようにしたいと思っています。
また、もう一つの問題が、お米の価格。震災前は、ずっと地元の業者さんに、業者さんの提示する相場で売っていたのだけど、受諾作業の仕事が減って、自分たちの作ったお米を売ったお金で生計を立てなきゃと考えたときに、買い取ってもらう金額と実際の労力があっていなかった。品質的には自信あるものを創っているのだけど、お米の価格は産地で決まってしまう部分が大きいから、過小評価されていると感じました。ただ作るだけじゃなく、もっとお米の単価をあげる努力をしないといけないことに気が付きました。
(農作業の様子)
■自分のファンになってもらうんじゃなくて。福島のファンになってもらいたい
絵美
そうして、震災後しばらくは、試行錯誤しながら売上をあげてきました。勉強会にも出て、ブランディングの視点からお米をどう売るか考えたり、WEBサイトを創ったり、とにかく自分たちのPRを意識してきましたが、最近は、それだけじゃ面白くないって思い始めて、「福島をあげてどう売っていくか」という考え方にシフトしてきました。福島全体が良くならなかったら、自分たちの売上も長続きしないと思うんですね。長期的に持続可能なものを求めて活動しているので、福島に注目してもらって、福島っていいところなんだって感じてもらって、全体がじわじわと盛り上がっていくようにしていきたいです。
晃司
グローバルGAP(注)取得に取り組み始めた理由も、そういう考えからですね。まず自分たち自身が、グローバルGAPを取得して、周りも追随してくれたら、福島全体が良くなると思って。
――ブログやFacebookでの発信も熱心にされているように感じます。
絵美
震災が起きてから、福島のことを外に発信しようと思って始めて、それが今も続いています。ブログはどちらかというと自分の内面の発信、Facebookは日々の活動についての発信が中心ですね。文章力がもっとあれば良いんですけど。
発信を通して自分のファンになってもらうんじゃなくて。福島のファンになってもらいたい。自分と出逢ったことをきっかけに、福島を知ってもらいたいと思ってもがいています。自分たちがやれることなんて小さいけれども。
晃司
そういうプロセスがね、面白いんだと思います。かんたんじゃないけど、福島をよくするためにもがいて。途中で失敗があっても良いんじゃないかな。
(絵美さんのブログ。葛藤も含めた内面が率直に綴られる)
(かわいらしいデザインが特徴のカトウファームのウェブサイト)
■10年かけてでも一歩ずつ前へ。やがては100町歩の大規模農家として、地域を支える存在に。
絵美
今はぜんぜん何もできてないけど、これからなんですよね。私たち。10年かけてでも良いので。人材育成も販路開拓も、色んな問題が山積みだけれども、今は一歩ずつでも何かしなきゃいけないんです。人も販路もできてくれば、だんだんと地域にも貢献できる会社になっていくのかなと思っています。
晃司
今、40町歩(=40,000平米)の田んぼをやっていて、福島市では最大規模の米農家になりましたが、近隣の高齢者の農家さんが引退しても、この地域に田んぼが残せるように、100町歩(=1,000,000平米)の規模を目指しているんです。引退を考えている農家さんが「誰かうちの田んぼをやってください」って頼ってきたとき、そのために動ける人も販路もあるような。地域全体を豊かにできる会社にしたいというのが目標です。
(以上)
※注 グローバルGAP(Good Agricultural Practices):農業生産工程管理(GAP)のうち、安全で品質の良い農産物を流通させるための世界的な基本認証であり、日本国内で取得できる唯一の国際標準。
(TOKYO HARVESTで受賞したHARVESTER認定証と一緒に)
(取材スタッフと)
(加藤ファームでは田植え体験など様々な体験もできます)
《カトウファームに行ってみたい!お米を食べたい!と思った方へ》
(外部サイトにリンクします)