2020年1月10日、正月ボケも吹き飛ばす熱いイベント『ふくしまfarmer’s Camp 特別対談』を宮城県仙台市にて開催しました。
◆ふくしまfarmer’s Campとは?
農家、漁師といった生産者をはじめ、一次産業に関わる全ての方に向けた、マーケティングやブランディングなどの【ビジネススキルの勉強会】です。
2016年より始まったこの活動も2020年で5年目に突入!
2020年初開催となった今回のふくしまfarmer’s Camp、当日は東北のみならず各地から地域を考えるリーダーたち70名が集いました!
今回は特別対談ということでソーシャルビジネスから社会の変革に取り組んできた2名をゲストとしてお招きし、東北が一次産業から社会を変えていくには何が必要か、その際に求められる役割とは何か、ゲスト自身の経験談も交えての熱い議論が繰り広げられました。
本記事では対談内容を紹介しイベント当日の熱量を多くの皆さんにお届けします!
———–目次———–
①ゲスト紹介
②社会変革の経験から語る
③これからの東北を考える
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①ゲスト紹介
■「農業」「食」をキーワードに立ち上がった岩手県出身の2人の変革者
1人目のゲストは、1975年に有機農産物宅配「大地を守る会」を創設したソーシャルビジネスのパイオニア、藤田和芳氏。高度経済成長の代償として発生した農薬問題や食への無関心を「命の問題」と捉え、この問題を打開すべく自らが立ち上がり、以来社会変革を牽引してきました。
そんな藤田氏に追いつけ追い越せと同じく食の分野から社会変革に取り組む存在が、当イベント2人目のゲスト高橋博之氏。震災後2013年から食べ物付き情報誌「東北食べる通信」を発行し、生産者と消費者を繋げることで「都市と地方をかきまぜる」ムーブメントを作ってきました。
時代やきっかけは違うものの、「農業」「食」を共通のキーワードとして社会にインパクトを与えてきたお二方…熱いイベントにならないはずがない!
高橋博之氏(写真左) 藤田和芳氏(写真右)
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②社会変革の経験から語る
■藤田氏:近代経済の流れの中には命の問題が入る余地がなくなり始めていた
藤田氏のビジネス立ち上げの背景には”農薬問題”に対する課題感がありました。しかし農薬の危険性を訴え無農薬野菜の販売を試みるも、既存の流通経路では価格の高さがネックとなり相手にされない…。
『大量生産、大量輸送、大量消費という近代経済の流れの中に当時の生協というものはあって、そこには農薬や化学肥料を使わないとか、安全性といった命の問題が入る余地がなくなり始めているなと思ったんですよ。』
このような現状を目の当たりにした藤田氏が選んだ無農薬野菜の販売先は団地での青空市。ベンチャーという言葉も浸透していなかった時代に「大地を守る会」は青空市から活動を始め、共感を集めて拡大していきました。
つまり社会変革は決して大規模に始まったわけではなく、地道で小さなところから一歩一歩始まっていったのです。
落ち着いた雰囲気でありながら力強い語り口に、時代に変革を起こすべく突き進んできた藤田氏のエネルギーを感じずにはいられませんでした。
“市民運動から始めた農薬問題への取り組み、なぜNGOではなく株式会社の形態を?”
この疑問に対して藤田さんはこう答えてくださいました。
■藤田氏:ビジネスの手法で社会課題を解決することこそが持続可能な運動となる
『農薬を使わないということは、農家の人たちが生きるということに寄り添って、農協や市場に持っていかなくとも虫食いキャベツをありがたいと思って買ってくれる消費者を作っていくこと。これが本当の意味での運動だと思ったし、これができるのは株式会社だと思った。』
『一方で株式会社には金儲け主義という欠陥があったわけです。でも僕は市民運動で培った市民運動的理想の姿と、株式会社が持っている経済に対するシステムと経験を結びつけて、ビジネスの手法で社会課題を解決するんだと思った。それこそが持続的な運動だと思った。』
この選択は、無農薬野菜が安価に扱われるがゆえに農家が農薬に頼らずして生計を成り立たせることができない当時の”社会の仕組み自体に問題がある”と考えたから。
つまり、農業の問題を解決するという意識から問題の根本を辿っていった結果、社会の仕組みを変革することに繋がったのです。農業問題と社会変革は決して遠くない関係にあるということを改めて実感できるお話でした。
■高橋氏:どうやって実現するのかを語らず、ゴールばかり語るのが嫌になった
生産者と消費者を繋ぐことを目指して立ち上がった高橋氏に対して「綺麗事」と批判する声も当時はあったとのこと…。
『やっぱり孤独でしたよ。ものを変えるというのは、新しく世の中を変えるというのは、変わり者扱いされるし孤独なんですよ。』
“けれど、”と話は続く。
『どうやって実現するのか、そこを語らないと結局評論家の立場だなと思った。「今の社会はおかしい、こうなるべきだ」ってゴールばっかり語るのが嫌になったんです。』
当時の自身について「孤独だった」と語る高橋氏。しかし孤独だからといって立ち止まるのではなく、社会の変革を実現する方法を語り実際に行動に移すことで、綺麗事という批判ができない状況を自ら作っていったのです。
”評論家の立場にいるのではなく当事者として中心に身を置いて行動していかなければいけない”という高橋氏の経験談に基づく姿勢が強く印象に残ります。
■高橋氏:出る杭は打たれるけど、打たれても潰れない人たちには潰されない条件がある
被災地でも、社会の変革に向けて立ち上がるも周囲に批判された自身と同じ姿を目にしたという。そこから感じた逆風に負けない人々の条件について次のように語ります。
『震災後若い人たちが「元に戻しちゃダメだ、新しいまちづくりをするんだ」とスイッチを入れて色々な提案をするけれど、足を引っ張られて潰されていく姿を見ました。』
『その時に思ったのが、出る杭は打たれるんですけど打たれても潰れない人たちというのは《出ている杭の当事者同士が地域を超えて繋がっている》そして《当事者の思いに共感して参加して、応援する人がいる》と。これが出る杭が潰されない条件だと思います。』
この高橋氏の言葉をお借りすれば、今回の『ふくしまfarmer’s Camp 特別対談』もまさに【当事者同士が地域を超えて繋がる場】【当事者の思いに共感して、応援する人が生まれる場】となっていたのではないかと思います。
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③これからの東北を考える
■高橋氏:自分さえ良ければ良いという利己主義では自分さえも幸せにできない
震災を経て、人間中心主義や利己主義ではいけないという意識を持ったという高橋氏は、岩手県出身の作家宮沢賢治の作品「注文の多い料理店」を例に挙げ、自分の利益だけを考えて行動することの危うさに言及しました。
震災後の東北については、この利己的な考え方とは対照的であると言います。
『東北の人と会って思うのは、批判主義ではなくてまず肯定主義で何か作り出していこうという方がすごく多いということ。もう1つは全体主義ではなくて、色々なやり方があっていい、多様だということ。』
『さらに、社会を変えていく時に、例えば一年かけて周りの人を変えていくようなすごく深い変革をしている方が多い。そうして変えられた人にも火がついて周りの人が次々変わっていく、そういうコミュニティーになっているんじゃないかと思うんです。』
このように、現在の東北には社会の変革を起こしていける文化とコミュニティーが生まれていると言えるのではないでしょうか。
これからは自然災害が増えてどこが被害にあうか分からない時代。
『その時に東北が積み上げてきたノウハウや文化を共有して生産者が繋がり合うことは素晴らしいことである。』というお話もありました。これも、逆境に負けずに立ち上がってきた東北だからこそ生み出していける価値だと思います。
■藤田氏:社会を立て直すキーワードは「共同体」と「繋がり」
藤田氏も高橋氏と同様に、利己主義により個人がバラバラになった社会は決して豊かな社会ではないと考えています。
そのような社会を立て直すキーワードとして藤田氏が挙げたのは「共同体」と「繋がり」。
『モノカルチャーではなく多様なものが繋がって共同体を作り、その多様性の中で足腰を強くし地域を作り、産業や社会を作っていくということが震災以降私たちが生きていく社会なのではないかと思う。』
このように、今後東北が一次産業から社会を変えていくには生産者だけが繋がれば良いのではなく、流通に関わる人や消費者など、さまざまな仲間を集めて支え合う必要があるといいます。
『それぞれのポジションでそれぞれを繋ぐ役割をやり始めたら今よりもうちょっといい社会ができてくるんじゃないかなと思います。』
この言葉からも利他的に繋がる共同体の重要性を感じ、印象に残るものとなりました。
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以上、『ふくしまfarmer’s Camp 特別対談』当日の熱量をゲストお二方のお話から感じ取っていただくことはできたでしょうか?
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
そして、開催5年目に突入した『ふくしまfarmer’s Camp』を2020年も引き続きよろしくお願いします!