福島県南相馬市原町区。この地で代々農家を営み、いちご農家としては2代目になる伊賀良真さん。伊賀いちご園の代表として、毎年おいしいいちごづくりに取り組んでいます!
伊賀さんはユニークな名称を付けた独自ブランドで3種類のいちごをつくっているのですが、そのいちごづくりにかける想いを今回インタビューさせていただきました!
■伊賀良真さんへのインタビュー
― いちごづくりはいつ始められたのですか?
(伊賀さん)「伊賀いちご園では、私の父の代からいちごを栽培しています。もともと農家の家ではありますが、いちごづくりは約30年前に父が始めました。私はその時中学生ですね。当時は学区内で2件しかいちご農家がいなくて、珍しかったと思います。」
― 伊賀さんがいちごの栽培に関わるようになったのはいつからですか?
(伊賀さん)「本格的に関わるようになったのは大学を卒業した20年前からです。大学では農業経済を学んでいました。ゆくゆくは農家の長男として、農業を継いでいくのかなと言う思いもあってこの学科に進みました。卒業後は大学が北海道だったこともあり道内の牧場で働いていましたが、祖父の体調が悪くなったのに合わせて帰ってくることになりました。」
― 牧場で働いていたのですね!
(伊賀さん)「そうなんです。ですがいちごが好きだったので、帰ってきて、いちごの栽培に関われるのは楽しみでもありました。学生の頃には、一生懸命いちごのパック詰めをしている親を見て、なんとなく楽しそうだなと思ったこともあります。実は卒業論文はいちご経営について書いたんですよ。」
― 卒業論文まで!それはいちごに関われるのがワクワクしますね!
(伊賀さん)「楽しみでしたね。帰ってからはまずは父親のやることを踏襲してやっていましたが、続けていちごを育てていると、わからないなりに疑問点が出てくるようになりました。最初はこだわりをもってつくろう等とは考えてもいなかったのですが、いろいろと試してみたくなってきたんです。」
― そうなのですね!試してみることはできたのですか?
(伊賀さん)「いちごを栽培し始めて5年経った時に、父親から自分でやってみろと責任を渡してもらいました。それまでは何を言っても門前払いだったのですが。自分でできることになりやってみたかった無農薬に挑戦しましたが、1年目はぼろぼろでした。虫が発生してしまって…。父親も農薬はあまり使っていなかったのですが、完全無農薬をやってみたかったんですよね。」
― 新しいことに挑戦するのは難しいですね…。
(伊賀さん)「難しかったです。ですがその経験を踏まえ今行っている『超減農薬栽培』の原型をつくっていくことができました!」
― 超減農薬栽培!あまり聞かない言葉ですね!
(伊賀さん)「私がつくった言葉です!残留農薬成分ゼロでいちごを栽培しています。畑からぱっと取って、洗わずにそのまま食べられるのがいいんですよね。安心感にもつながります。そして試行錯誤してきた結果、虫や病気が出ても化学的なもの以外で対処できるようになりました。ダニをやっつけるダニもいるんですよ!」
― それはすごいです!そこから軌道に乗ってきたのでしょうか?
(伊賀さん)「いえ、15年前に栽培をやれるようになり毎年いろいろと試してきていたのですが、2011年に東日本大震災が起こったことで、いちご栽培をストップせざるを得なくなってしまいました。震災後最初の3か月は知人のいた新潟でお米づくりのお手伝いを行い、その後は学生時代を過ごした北海道で2年程働いていました。その後、南相馬に戻ってきて震災関連の県職員を行っていました。他には家の解体アルバイトなんかもしてましたよ。」
― いちごの栽培もこれからと言うタイミングでの震災。そして大変な時期があったのですね…。
(伊賀さん)「そうですね。それから県職員と並行して、地元で農業を再開されていた方の所へ朝晩お手伝いへ行く生活をしていました。そして2014年、やっといちごの栽培を再開することになりました!」
― 4年ぶりの再開!
(伊賀さん)「2014年の再開時は両親がメインでいちご栽培を行っていましたが、翌々年の2016年に私も本格的にいちご栽培に復帰することになり、そのタイミングで父親から代替わりして経営者としてもスタートしました!先に話した超減農薬栽培への挑戦も遅れてはしまいましたが、やっと行っていくことができるようになりました。」
― いよいよ伊賀さんのいちごづくりへの環境が整ったのですね!
(伊賀さん)「はい、改めておいしいいちごづくりに取り組むことができるようになりました!」
― 改めていちごづくりをスタートして、何か工夫したことはありますか?
(伊賀さん)「いちごがおいしくなるように、毎年こだわりの肥料をつくっています。イメージは”出汁“でしょうか。20種類の肥料をブレンドしていて、その原料には鰯や鰹、海藻や牛骨など、天然由来のものを使っています。」
― 本当においしいスープがつくれそうですね!
(伊賀さん)「毎年改良するこの肥料ですが、根っこを強くすることや光合成の促進をイメージしてつくっています。光合成をすることで糖分をつくってくれるようになるんですよ。またこの肥料を与えるタイミングも重要視していて、ここが勝負と言うタイミングでさらに与えたりと工夫をしています!」
― 肥料は大事ですね。他に工夫されてることはありますか?
(伊賀さん)「あとはいちごの性質を利用した育て方をしています。例えばハウスの温度を昼間に上げて、夕方に落とす。そうすると糖分と養分はあったかい方へ流れるので、水分の多い実に流れていきます。水分の多い場所が一番温度が高いまま保たれているので。そうすると大きな実になり、収穫量も上がっていきます。」
― すごい!そんな性質を利用しているのですか!
(伊賀さん)「あとは完熟を収穫しているとことですかね。獲って次の日に食べるのがベストです!へた裏まで赤くなり、ツヤが出ているいちごはおいしいですよ!」
― 伊賀さんにとっておいしいいちごとはどんなものですか?
(伊賀さん)「みずみずしさ、濃さ、香り、うまみ。全部強いのが至高。世界歴代1位の味をつくる。毎年自分の味を越える。そうすれば1位だと思っていちごをつくっています!」
― 伊賀さんのいちごづくりへの情熱はすごいですね!いちごの種類についても教えてもらえますか?
(伊賀さん)「品種で言うと『ふくはる香』、『とちおとめ』、『章姫』の3種類とつくっています。ふくはる香は福島独自の品種でバランスがいいのが特徴です。甘味と酸味がよく旨味も付くのがいいです。おもしろいのが食べて30分くらいすると、ふいに旨味が返ってくるんですよ!後からじわじわくる、ほかにはない味わいを楽しめます!そんなことから伊賀いちご園では『スウィートジュエル』と言う名前を付けて販売しています。」
― スウィートジュエル!
(伊賀さん)「宝石みたいに形がきれいなのでこの名前にしました!味も甘くておいしいのでイメージにぴったりだと思います!ちなみにとちおとめは『プリンセスルージュ』、章姫は『パフュームクイーン』と言う名前を付けています。」
― プリンセスルージュとパフュームクイーンもユニークですね!
(伊賀さん)「プリンセスルージュはとちおとめなので日本一つくられている品種ですが、酸味・甘味・旨味の順に三段活用でおいしさを楽しめるのが特徴です!まさにいちご界のジャンヌダルクだと思っています。そんなイメージを基に、一般にお客さんから公募で選んでもらった名前が、プリンセスルージュです!SNSでの決選投票ではぶっちぎりの一番でした!」
― 名前を公募で決めると言うのはおもしろいですね!パフュームクイーンはどのようないちごですか?
(伊賀さん)「パフュームクイーンは章姫と言う品種ですが、甘みと香りが特徴的です。まるで香水のような、高貴な雰囲気があります。個性が一番強いものかもしれません!また打撃に弱く運びにくい品種でもあるので、地元でしか食べられない幻の品種と言えるかもですね。」
― 3種類とも特徴がありおいしそうです!いちごをつくる上で、他に何かされていることはありますか?
(伊賀さん)「そうですね…。例えば受粉にはミツバチに協力してもらっています。ミツバチをハウス内で飼っていて、彼らが動くことでいちごの受粉ができるんですよ!」
― 箱がたくさん置いてあったので気になっていました!ミツバチの住み家だったのですね。
(伊賀さん)「あとおもしろいのは、実はいちごの花びらの数はバラバラなんです!基本は5枚ですが、6枚、8枚なんてものもあります。花びらの枚数が多いと大きないちごに育ちやすいのも特徴ですね。」
― いちごは花びらの枚数が決まっていないんですか。驚きです!
(伊賀さん)「そしてミツバチのおかげで受粉すると、花びらの真ん中部分が成長していちごの実になっていきます。こちらはまだ小さいですが、いちごの形に近づいてきてますよ。」
― 1つのいちごを食べようと思っても、本当にいろいろな行程を経て食べられるようになっているのですね。おいしいいちごが食べられるのは本当にありがたいことです!
(伊賀さん)「いちご農家は、皆さんこだわりを持っていちごをつくっていると思います。そしてやはりいちごを食べてくれる方が嬉しそうに食べている様子を見るのが、私たちにとっても嬉しいことです。うちのいちごを食べてもらって、心の底から湧き出るような笑顔が出てほしいです!」
南相馬市の伊賀いちご園さん。こだわりと情熱をもって、いちごづくりを毎年行われています。超減農薬栽培や自らブレンドしてつくる肥料、そして独自ブランドの3種類のいちごも特徴的です。12月から5月までが販売時期ですので、ぜひ伊賀さんのいちごをお試しください!!