
鮮度と信頼を家族でつなぐ
二本松市で椎茸とふくふくしめじを育てる安斎農園は、三代にわたって農業を営む家族経営の農家だ。
現在の主な作物は椎茸とふくふくしめじ。そのほかに、水稲や蚕、花なども少量ずつ組み合わせながら、一年を通して農業を行っている。
安斎農園が椎茸栽培を始めたのは約35年前。代々きのこ農家だったわけではない。きっかけは、冬の出稼ぎに頼らず、地域で暮らしながら生計を立てたいという思いだった。「父が、冬の間も外に働きに行かなくていいように、秋から春にできる作物として椎茸を始めたんです」かつては、冬になると都市部へ出稼ぎに出る農家も少なくなかった。
そうした働き方から、家族で一年を通して農業に向き合う暮らしへと転換した。安斎農園の営みは、生活と農業を切り離さない選択から始まっている。

収穫期だけが農業ではない——一年を通した積み重ね
安斎農園の椎茸の収穫期は、主に1月から6月、そして9月から12月。一方で、収穫のない時期も作業が止まることはない。菌床の管理、ハウスの整備、消毒、次の作付けに向けた準備が続く。
「収穫している時だけが農業じゃないんです」
その言葉どおり、秋にはお盆とお彼岸に向けた小菊の栽培、春から夏にかけては田んぼ仕事も並行して行う。限られた面積の中で、作物を組み合わせながら一年の流れを組み立てている。
「大きな土地があるわけじゃないので」
育苗ハウスを花栽培に活用するなど、資材を無駄にしない工夫が随所に見られる。家族経営だからこそ、目の届く範囲で柔軟に組み立てていく農業だ。
直売所という選択——鮮度と信頼を最優先に
安斎農園の椎茸とふくふくしめじは、すべて直売所で販売されている。主な出荷先は、安達管内の道の駅や地域の直売所だ。
「直売所だと、お客さんの反応が直接わかる。新鮮なものを、できるだけ早く届けられるのが一番ですね」
以前は遠方への出荷も行っていたが、燃料費や資材費の高騰を受け、現在は縮小した。
今大切にしているのは、“無理をしないこと”。価格を自分たちで決められること。顔の見える関係の中で、信頼を積み重ねられること。直売所は単なる販路ではなく、安斎農園の農業の考え方そのものと結びついている。
ふくふくしめじという、もう一つの選択
安斎農園が栽培するふくふくしめじは、福島県林業研究センターが開発した品種だ。

天然のほんしめじから菌を採取し、人の手で作った菌床を使い、空調設備を用いず、自然環境に近い条件の中で育てる。世界でも珍しい、人工栽培による自然栽培のほんしめじとして知られている。安達管内で、このふくふくしめじを栽培しているのは安斎農園だけだ。栽培期間は短く、収穫できるのは11月中旬から1か月ほど。同じ菌床から何度も収穫できる椎茸とは異なり、ふくふくしめじは一度きりの収穫となる。
「手間はかかるし、たくさん採れるわけでもない。正直、販売は難しいきのこですね」
それでも栽培を続けている理由は、単純な収益性ではない。ふくふくしめじは、椎茸以上にだしが出ると言われ、香りも強い。アスパラギン酸を多く含み、料理に使うと味に奥行きが生まれる。直売所では、こんな声をかけられることもあるという。
「昔食べたこの味が忘れられなくて」
そう話す年配の客が、後日また買いに来てくれたことがあった。安斎さんはそれを「思い出の味みたいなものなんでしょうね」と、静かに受け止めている。
研修での出会いがつないだ、本しめじ栽培
ふくふくしめじとの出会いには、研修時代の経験が大きく関わっている。安斎さんは研修を通じて、菌類や菌茸の菌床栽培について学んだ。その際に指導を受けた研究員が、後に本しめじ栽培を主導する立場となった。
「菌床栽培の基礎を教えてもらったこと、その方が本しめじに取り組んでいたことが大きかったですね」
そうした縁もあり、ふくふくしめじの栽培に取り組むことを決めた。
「教えてもらったから、やってみようと思った」
淡々とした言葉の中に、これまでの積み重ねと信頼関係がにじむ。新聞に掲載された際には一気に売れることもあるが、普段は丁寧に説明しながら、必要とする人に手に取ってもらう。
大量に売るための作物ではない。ふくふくしめじは、福島ブランド「ふくしまプライド。」にも認定されている。現在は伊達市から下郷町まで、県内各地で栽培に取り組む生産者がいる。
「一軒でどうこうするものじゃない。福島全体で、少しずつ知ってもらえたらいいですね」
安斎さんにとって、ふくふくしめじは、福島の風土や食の記憶とつながりながら、地域全体で育てていく存在だ。
小さくやるという判断——変化に耐えるために
近年、きのこ栽培を取り巻く環境は大きく変わっている。夏の長期化、異常な暑さ、これまで見られなかった害虫の発生。椎茸栽培は、防除や消毒を行わずに育てられる点が大きな魅力だという。その一方で、害虫が出た場合に薬剤で対処できないため、水をかけたり、菌床を水に浸したり、温度管理を工夫したりと、自然条件の中で対応する難しさがある。だからこそ、規模を抑え、すぐに調整できる余地を残すことが重要になる。春の収穫量を増やしたり、秋冬の比重を調整したりと、年ごとに配分を変えながら対応している。小さくやることは、守りではなく、変化に対応するための現実的な選択だ。
地域とともにある農業
安斎農園には、地元の小学生が見学に訪れることがある。かつては椎茸の収穫体験や、繭を使った卒業式用コサージュ作りも行われていた。
「袋に入ったきのこしか知らない子も多いですから」
育つ過程を知ることで、直売所に足を運ぶようになる家族もいる。大きな取り組みではないが、地域の中で静かな循環が生まれていると、安斎さんは話す。

鮮度と信頼を守るということ
安斎農園が大切にしているのは、鮮度、信頼、資材を大切に使うこと。どれも派手さはないが、長く農業を続けるために欠かせない軸だ。家族で向き合い、土地との相性を確かめながら、できる範囲で農業を組み立てていく。その積み重ねが、今日も直売所の棚に並んでいる。
(インタビュー・分・写真:菅野海琴)

