会津をつなぎ、循環させていく発酵のチカラ間舩栄崇さん cafe vege農園(間舩農園)

よみもの生き方

会津盆地を南へと進むと、だんだんと山が近くなってくる。山にうっすらと積もった雪、その前を流れる川の音がきれいで車を走らせるのが心地よい。

たどり着いたのは阿賀川の清流と山々に囲まれた会津美里町穂馬(ほま)という地域だ。ここで様々なことに挑戦する若き農家がいる。cafe vege農園(間舩農園)の間舩栄崇さんである。主な農作物は米や菊だが、西洋野菜の栽培、堆肥づくり、コーヒープロジェクト、地元酒蔵で蔵人として働く等…間舩さん自身は面白い取り組みを多数行っている。

到着するとさっそく雪が積もった畑へ案内してくれた。畑にはネギのような野菜がずらり。雪の中から掘り起こす。ネギよりも太くて真っ白な茎が雪の中から現れる。

間舩さん:「これはネギではなく、リーキという野菜です。リーキは地中海沿岸原産の西洋ネギで、別名ポロネギともいいます。太くて白い茎が特徴で、加熱するとトロッとした食感と濃厚な甘味が感じられます。緑の部分は旨みも強く、煮込み料理やスープにいれて出汁として使うのもおすすめです。新鮮な根っこは、天ぷらにすると香りがよくておいしいんですよ。」

3年前から手探りで始めたというリーキ栽培。きっかけは、地元のシェフからの「フレンチで使いたいけれど、輸入品は高すぎる。地元で作れないか」という相談だった。さらに間舩さんはそこに会津の農業の弱点を克服する可能性も感じているという。
間舩さん:「リーキは乾燥や暑さに比較的強く、かつマイナス11度の寒さにも耐えられる。会津はもともとネギの栽培が盛んな地域ですが、最近の夏の暑さで不作になることもあって、苦労している農家さんも実は多いんです。さらに雪深いこの地域は、冬から春先にかけて収穫できる野菜が極端に少なくなるという問題もあるのですが、リーキなら雪解け直後の3月や4月にも出荷できるという利点もあります。」

栽培を始めて今年で3年目。まだまだ試行錯誤の最中だが、だんだんとよいものが育つようになってきたという。「冬の間の収入源になって、農家さんが少しでもゆとりを持てるようになればいい」と、農業普及所にも情報を共有して、リーキ栽培を会津で広げられないかと取り組んでいるという。

農業の知識を学ぶ面白さに気づく

代々続く農家に生まれた間舩さんは、なんと14代目だという。小さい頃から祖父母や父母が農業を営む姿を見ていたという間舩さんだが、自分もすぐに農業の道に行くとは思っていなかった。
高校卒業後、農業短大に進んだ間舩さんは、学んでいくうちに農業への関心が高まり、卒業する頃には農業をやろうと心に決めていたという。その前に「一度は社会人を経験しておこう」と就職したのが、会津管内で最大手の種苗会社だった。種や苗の専門知識はもちろん、ビニールハウスの設営、土壌改良まで幅広く手がけるこの会社で、間舩さんはある先輩に出会った。

間舩さん:「ひとりで3億、4億を稼ぐ先輩社員がいて。その人がやっていたのは物を売る仕事ではなくて、知識を売る仕事だったんです。農業の知識はもちろん、土の知識も豊富。コンサルした農家さんは必ず収入が上がる。売上もすごいけど、何より知識がすごかった。」

その先輩の話を聞いているうちに、土や肥料、農法について興味を抱くようになる。学んでいくなかで、有機物が土にとって大切だということに気づいたという。

間舩さん:「人間の体だって5大栄養素のサプリだけを食べていたら健康ってわけではないですよね。食べ物に含まれるその他の栄養素も複雑に絡み合うからこそ、健康な体ができる。畑も一緒だなって思ったんです。」

化成肥料はいわば必要な栄養素のみを濃縮させたサプリメントのようなものだ。投入すると即効性がある。一方で、必要栄養素以外のものも含まれている有機肥料はじっくりと効いていくのだという。土に様々な有機物をいれて、それをしっかり発酵させることによって、病気の種類が減り、暑さや水害などの環境要因にも強くなる。

間舩さん:「基本は有機農法で、本当に健康な畑を作っています。その上でどうしても必要なときに治療的に農薬を使ったり、どうしても補いきれない栄養素だけ化成肥料で入れるなど、一部に慣行農法も取り入れています。」

どちらの方かいいということではなく、これらを組み合わせることが大切だと間舩さんはいう。cafe vege農園(間舩農園)では、それらを組み合わせたハイブリットな循環型農法に取り組んでいる。

“コーヒーかす”を使った循環型堆肥を開発

土の知識への興味関心から、間舩さんは堆肥作りにも取り組んでいる。元来廃棄されていた“コーヒーかす”を中心に、ワインの絞りかすや酒粕、もみ殻などを加えて作る。土壌の改良と作物の健やかな生育を促すために、3段階の発酵工程を通して丁寧に作られた完熟堆肥である。

間舩さん:「土づくりでは、すべての生き物の細胞の核になる炭素を入れることが大事なんです。そのためによく使うのは動物性堆肥なんですけど、動物性堆肥には水を汚染するという問題もあって。植物性でしっかり炭素を補えるものは何があるかなと、コーヒーを飲みながら考えていた時に、ちょうど淹れた後のコーヒーかすが目に入って。“あ!これ使えるんじゃないか!?”と。」

農業を始める前から、コーヒーが好きでよく自分で淹れて飲んでいたという間舩さん。「これはいいアイデアかも」と調べていくと、コーヒーの大手企業の研究論文がでてきたという。書かれていたのは、“コーヒーかす”きちんと発酵させて土に入れると、作物の収量と品質が上がったというデータだった。

さっそく研究を始めるため、会津若松市の「Lover’s Coffee(ラバーズコーヒー)」さんに、コーヒーかすの回収をさせてもらえないかと相談にいった。オーナーに話を聞くと、コーヒーの残渣はコーヒー業界の中でも問題で、廃棄に困っているということがわかった。

Lover’s Coffeeさんとともに取り組みを進めていくと、会津若松市の公益社団法人会津社会事業協会が運営する地域活動センタージョイさんが作業をぜひ手伝いたいと声をかけてくれた。そのおかげで生産量を増やせるようになり、「サステナブル堆肥 カフェたん」として商品化することがかなったのだ。

間舩さん:「今では、この取り組みに共感してくれたLover’s Coffeeさんのお客さまが、自宅で楽しんだコーヒーのかすをお店に持ってきてくれたりもしています。この堆肥が地域循環の一部になれたことは、とてもうれしいことですね。」

地域でコーヒーかすを回収し、多様な人が関わり合いながら堆肥へとリサイクルされる。それがまた土に還り、そこから野菜が育つ。ここ会津から、そんな循環が生まれている。

研究開発者として関わる会津発酵珈琲プロジェクト

ひとつ疑問に思うことがあると、どうしても調べたくなるという間舩さん。
間舩さん:「誰かが言っている情報では納得がいかなくて、論文やデータなど、一次情報で知識を得たい。それで、論文に書いてあったことを実際に試して確かめたりするのが面白いんです。」

そんな間舩さん、また新しいことに取り組んでいるという。それが「会津発酵珈琲」というプロジェクトである。

間舩さん:「“福島ならではの珈琲をつくりたい”という想いから、福島の日本酒づくりの発酵技術をコーヒーに活かせないかと始まったプロジェクトです。焙煎する前の生豆を独自の技術で発酵させていて、発酵によって生まれる奥行きのある味わいが特徴です。研究を進める中で、福島県の野菜や果物を使って発酵する事で様々なコーヒーが出来るいうことがわかってきて。現在、福島県の研究機関との共同研究により、珈琲の発酵条件の最適化や品質評価などを科学的に検証しながら、開発を推進しています。」

間舩さんはこのプロジェクトに、これまで農業や土づくりで培ってきた発酵の知識とその研究者気質を活かし、“商品開発・発酵研究支援”という形で携わっている。現在は、鶴ヶ城の桜から採れる天然酵母を使った発酵珈琲の商品化に向けて、クラウドファンデングにも挑戦中。試作段階で、すでに県内外のロースターや消費者の方々からは好評だ。

これからのことについて伺ってみると、「やっていることは色々ありますが、まずは基盤である田んぼの面積を増やしていきたいですね」と話す間舩さん。長期的には農業法人化も視野に入れ、1世帯がしっかりと生活していけるくらいの規模のお米を生産しつつ、野菜を少量多品目でつくっていくことを目指しているという。さらには、いつか自分が作った堆肥で育てた酒米で、プライベートブランドの日本酒をつくることも密かな夢だという。「土も発酵、コーヒーも発酵、お酒も発酵。自分はどうやら発酵が好きみたいですね。」とはにかむ間舩さん。

純粋な好奇心をきっかけに、さまざまな関係性の中で彼が取り組んでいくこと、その先にある会津の未来がとても楽しみである。

(インタビュー・文・写真:岡田菜緒)

間舩栄崇 cafe vege農園(間舩農園)
会津美里町で14代続く農園。米や菊が主で、野菜も少量多品目で栽培。地域のコーヒー店や社会福祉事業所と協同し、コーヒーかすを利活用したアップサイクルな堆肥「カフェたん」も販売中。商品開発・発酵研究支援として関わる会津発酵珈琲プロジェクトが現在クラファンを実施中。
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