福島県南相馬市原町区。
この地域で酪農を営みながら、チーズやソフトクリームといった乳製品の加工にも取り組んでいる牧場がある。柚原ファームの柚原友加津さんだ。
一般的な酪農家の仕事は、生乳を生産し乳業メーカーへ出荷すること。しかし柚原さんは、自分たちの牛から搾ったミルクを加工し、地域の人に直接届ける取り組みを進めている。
チーズやソフトクリームといった乳製品づくりの背景には、「酪農をもっと面白い仕事にしたい」「地域とつながる形にしたい」という想いがある。
柚原ファームとは?──南相馬で続く酪農

ーまず柚原ファームについて教えてください。
柚原さん
「うちは南相馬市原町区で酪農をやっていて、乳牛をだいたい25頭くらい飼っています。祖父の代から続く牧場で、ホルスタインのほかにジャージーとブラウンスイスという品種の乳牛も飼っています。この地域でも昔はもっと酪農家がいたらしいんですが、だんだん米やタバコなど別の農業に変わっていってしまって、今では原町区で酪農をしている家は数えるほどになってしまいました。」
柚原さんは大学で畜産を学び、その後北海道の牧場で経験を積んだ。
柚原さん
「大学は畜産系の学部で、反すう動物の栄養や飼育管理などを学びました。卒業してから北海道の牧場で2年ほど働いたんですが、やっぱり酪農の現場って面白いんですよね。牛の状態や飼料、季節などでミルクの状態も変わるので、毎日同じようでいて実は違う。そういう仕事の奥深さを感じていました。」
震災を経て考えた酪農の未来

ー牧場を継いだ頃の状況はどのような感じでしたか。
柚原さん
「本格的に牧場を任されるようになったのは30歳くらいの頃で、そのあとすぐ東日本大震災がありました。2年くらい避難もしていたのですが、その間も父と牛の世話を続けていました。酪農って牛がいる以上止めることができない仕事なので、どんな状況でも牛の世話は続けないといけないんです。」
震災後に牧場へ戻り、酪農を続ける中で柚原さんはあることを考えるようになった。
柚原さん
「周りの皆さんが廃業したりする中で、酪農を続けるなら、ただ生乳を出荷するだけじゃなくて何か面白いことをやりたいなと思ったんです。自分たちのミルクを使って商品を作るとか、地域の人に直接届けるような仕事ができたらいいなと考えるようになりました。」
チーズづくりという挑戦

ー加工品の中でチーズを選んだ理由は何だったのでしょうか。
柚原さん
「最初はいろいろ考えたんです。ヨーグルトとかアイスクリームとか。ただ設備や衛生許可などを考えると、まずはチーズから始めるのが現実的かなと思いました。もともと北海道で働いていた時も興味があって、いろんなところでチーズを食べ歩いたりしていたこともきっかけの一つですね。個人研究というか。笑
チーズづくりの研修も受けて、宮城県の蔵王酪農センターなどで製造の基本を学びながら、牧場の倉庫を改修して小さなチーズ工房を作りました。」
チーズづくりを本格的に始めたのは2022年頃。
柚原さん
「チーズって牛乳10キロから1キロくらいしかできないんですよ。すごく手間がかかるし効率もいいわけではないんですが、その分、作り方や熟成の違いがそのまま味に出るので、やっていて面白いんです。今は主にモッツァレラチーズを作っていて、近所のスーパーや直売所で販売したり、地元の飲食店さんの料理に使ってもらったりしています。」
ソフトクリームという新しい入口
チーズと並行して始めたのがソフトクリームの販売だ。
ーソフトクリームを始めたきっかけは?
柚原さん
「チーズはさっき言ったように牛乳がかなり減ってしまうんですよ。そこで牛乳をそのまま活かせる商品としてソフトクリームを始めました。ソフトクリームって子どもから大人まで好きな人が多いですし、牧場に来てもらうきっかけにもなるんですよね。現在はSNSなどで営業日を告知しながら牧場で販売しています。場所が住宅地から少し離れているので、たくさん人が来るような観光施設という感じではないんですが、来てくれた人にゆっくり食べてもらえるような形でやっています。将来的にはソフトクリームとチーズを安定して販売できるスペースを作れたらいいなと思っています。」
牛と向き合うことがすべての基礎

ー飼育している牛との関わり方を教えてください。
柚原さん
「牛が健康じゃないと美味しいミルクは出ません。そこが第一ですね。一頭一頭性格も違うので、愛着もあります。生き物を扱っている仕事なので毎日牛と接しますし、そういう姿を見ていると、ちゃんと世話をしてあげたいなと思います。最終的には放牧して育てることも目指しています。」
柚原ファームではホルスタイン/ジャージー/ブラウンスイスいう品種の牛を飼育している。
柚原さん
「生乳だけならばホルスタインだけでも良いですし、ホルスタインのミルクでも加工品は作れます。ただ、ジャージーのミルクは脂肪分が高くてソフトクリームに向いていますし、ブラウンスイスはチーズに向いていると言われています。牛の種類によってミルクの特徴が違うので、それを使い分けるのが自分で育てたミルクを自分たちで使って加工品を作る上でも面白いところですね。
元々父親は牛の品種を増やすことには反対だったんですが、これは僕のやりたいこととして挑戦させてもらって、いまに至ります。それに、いろんな種類の牛がいた方が可愛いでしょ?笑」
お客さんの顔が見える酪農へ

ー6次化を始めて変わったことはありますか。
柚原さん
「一番大きいのは、お客さんの顔が見えるようになったことですね。生乳を出荷するだけだと消費者の方と直接会うことはほとんどないんですが、チーズやソフトクリームを作るようになってからは、食べた人から“美味しかった”って言ってもらえることが増えました。直接お客さんにあって自分が作ったものを評価してもらえることはやっぱり嬉しい。
飲食店とのつながりも広がっていて、地元のお店でチーズを使ってもらえると、自分たちが携わる酪農が地域の食文化の一部になる感じが実感できて嬉しいですね。
いわき市にあるフレンチのお店などでもうちのチーズを使っていただいたりして、作り始めた時には考えもしなかったご縁も広がり、ありがたい限りです。」
地域を面白くするプレーヤーに

ーこれからの目標はありますか。
柚原さん
「まずは今は不定期で営業しているソフトクリームを、安定して提供できる場所を作りたいですし、チーズの種類も少しずつ増やしていきたいと思っています。青カビのブルーチーズなんかも作ってみたいですね。
そんな中で自分たちが作ったモッツァレラチーズが普通に地域のみなさんの食卓に並ぶようになればいいなと思っています。
一番は規模を大きくするというよりは、地域の中で面白い存在になれたらいいなと思っています。
自分もこの地域で生活しているので、地域が面白い場所になった方がいいんですよね。
自分が生活している場所を面白くできて、それに自分が楽しいと思うことで関わることができる。そうするとさらに地域が面白くなって…。そういうのって最高じゃないですか。笑
だから、ただ牛を育ててミルクを売るだけじゃなくて、それも基本として大事にしつつ、地域のプレーヤーの一人として、もっといろんなことで酪農や食を通して地域に関わっていけたらいいなと思っています。」
試行錯誤することが面白い

ー新しい挑戦を続ける原動力はなんですか?
柚原さん
「たぶん私は試行錯誤するのが好きなんだと思います。チーズもソフトクリームも、やってみて初めて分かることばかりですし、うまくいったりいかなかったりの繰り返しなんです。でもその中で少しずつ形になっていくのが面白いんですよね。
そういう考え方だから、正直何か新しいことを始めるのに、リスクとか怖さみたいなものをあまり考えたことがなかったです。失敗してもそれは試行錯誤のはじまりなので。試して、やってみて、改善して…、の繰り返しに今は夢中ですね。ずっとチーズやソフトクリームのことを考えちゃってるので、仕事とプライベートという感じではもう別れてません。笑
南相馬だけじゃなくて、日本全国それぞれの地域が楽しい場所になったらいいですよね。その中で、自分たちの牧場のミルクやチーズが、この地域を知る入口みたいになったら嬉しいです。」
柚原さんの口調からは優しい雰囲気を感じると同時に、そのお話の中には自分自身で試行錯誤することに夢中になっている清々しさも感じられた。
地域に対しても、製品づくりに対しても、「面白いことをするから、面白くなっていく、だから面白い。]
試行錯誤と楽しみの輪をグルグルと回しながら行われる、柚原ファームの新しい挑戦と生業。
柚原ファームの取り組みは、足元から着実に南相馬の食文化の可能性を広げ始めている。
(取材・文:小波津龍平)

